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ウイスキー造りへの挑戦と未来。 ウイスキー造りへの挑戦と未来。

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from President

堅展実業株式会社 代表取締役社長

樋田 恵一

アイラモルトへの憧れに動かされ、自分の追い求めるウイスキーを造るために、ゼロから厚岸蒸溜所を創設。全員素人から始まったチャレンジが、世界的に評価されつつある今、代表・樋田恵一が、これまでとこれからへの想いを語ります。

SECTION 01

豊かな海を守ろうとする
人々の想いを、
“沖の神”に届けるボトル。
私たちは年に何度か、ウイスキーの国際的な品評会にチャレンジしています。自分たちにできる最良のものを目指して臨んでいますが、それが審査員の方々にどのように伝わるのか、いつも結果発表までの間、気が気ではありません。

ワールド・ウイスキー・アワード2024では、「厚岸カムイウイスキー® レプンカムイ」のカテゴリーウィナー/金賞をはじめ、非常に良い評価をいただくことができ、少し安堵しているところです。

レプンカムイとはアイヌの言葉で「沖の神」、つまりシャチを表します。シャチは海の神の中でも最高位にあたり、2023年に北海道厚岸町でひらかれた「全国豊かな海づくり大会」を記念したボトルに、その名前を掲げました。これからも豊かな海を大切にし、守り抜いていくという人々の尊い気持ちが、海の守り神に届いて欲しいという願いを込めて、製品を造ってまいりました。

そのボトルが、国際品評会でも高い評価を得たということで、蒸溜所設立当初から応援してくださっている厚岸町の皆様も一緒によろこんでくれ、海の仕事に携わる方からも、数多くの温かいお言葉をいただきました。

SECTION 02

全員素人だからこそ、
創意工夫を重ね、
自分たちの造り方を
つくってきた。
実は、もともとは蒸溜所を建てることなど、想像さえしていませんでした。私自身、30代になった頃からウイスキーに親しむようになり、ピートの強いアイラモルトにはじめは圧倒されながらも、その味が気になって2回3回と飲むうちに、虜になるような優れたウイスキーであることを理解していきました。

ピーティーなウイスキーが変貌を遂げる様子を、いろいろと垣間見たい。そんな想いから、はじめはスコットランドの「インディペンデントボトラー」のように、未成熟のウイスキー原酒を他社から購入し、その原酒を熟成させ、独自の熟成年数のものを販売するというスタイルを志向していました。

しかし、独自に樽熟成するにしても、ウイスキーの製造免許がなければ、何ひとつすることができないということを知り、免許取得に向けて動き出しました。そして折角なら、本当に自分の求めるウイスキーを造るための最短のアプローチとして、原酒から自分たちの手で造ることを決意しました。

ですからはじめ、厚岸蒸溜所には、ウイスキー造りの素人しかいませんでした。スコットランドから設備とともにやって来た技術者と、コミュニケーションの壁に苦労しながらも一から製造を学び、教わったことが一通りできるようになってからは、毎年、毎月、毎週、一つひとつの工程を見直し、自分たちで創意工夫を重ねてきました。

SECTION 03

まだ見ぬ可能性に、
24回チャレンジできる
「二十四節気シリーズ」。
「二十四節気」をテーマにしたシリーズも、ウイスキー造りを始めて日が浅い厚岸蒸溜所だからこそ生まれたシリーズです。私たちが定番の10年物や15年物といったシングルモルトウイスキーを発売できるようになるのは、まだ遙か先のことです。その中で、手元にある原酒を活かす方法として考えたのが、確固としたコンセプトワークのもとで毎回風味の違うウイスキーを製造することでした。

ピーティーなウイスキーのいろいろな変貌を見てみたい、という想いがもともとありますから、試してみたいこともたくさんありました。そうなると、10回に満たず終わってしまうシリーズではなく、腰を据えてさまざまな可能性にチャレンジできるものがいい。このような考えを巡らせる中で辿り着いたのが、二十四節気でした。

二十四節気というのは、東洋の季節の見方で、日本人にとって馴染みの深いものですが、2節気=1星座となり、西洋の人々に親しみのある12星座とも符合します。私たちのウイスキーを東洋だけでなく、西洋の方々にも受け入れてもらい召し上がっていただくうえで、この符合も重要な意味をもつと考えました。実は、二十四節気シリーズのラベルには、必ずどこかに星座のデザインが入っています。ぜひ探してみてください。

SECTION 04

総合芸術のように、
五感のすべてで楽しめる
ウイスキーを。
ウイスキーは五感をつかって楽しむもの、という信念があり、二十四節気シリーズにもその要素を取り入れています。

味覚、嗅覚は風味を味わうのに欠かせませんが、たとえば瓶は、視覚や触覚を通してウイスキーの楽しみを深めてくれます。アイラモルトへのリスペクトを込めて形状をデザインしたボトルは、通常よりも重く、手に取るとずっしりと重厚感を感じていただけます。

コルクについては、20年経っても劣化しないものを供給元にリクエストしました。ウイスキーを長い間保管しておいて、何かの大事な機会に抜栓するというお客様も多いのではないかと想像します。その際にコルクが折れてしまっては折角の高揚感が台無しです。そのようなことは未然に防ぎたい。これは、長年オールドボトルを愛飲してきた私の譲れないこだわりです。良い状態が保たれたコルクを開ける時の音は、聴覚にも心地よく響いてくれることと思います。

ラベルについては、最初の製品から一貫して同じクリエイティブディレクターが製作を手がけ、その節気にまつわる自然現象、年中行事など、広く素材を集めて各々のラベルに落とし込んでいます。

生意気な言い方をすれば、厚岸蒸溜所のウイスキー製品は、中身から外装に至るまでのすべてが調和の中に設計された、総合芸術的なものであってほしいと願っています。

SECTION 05

厚岸オールスター、
後世へのバトン。
アイラへの憧れの先に
広がる夢
アイラモルトに憧れ、ゼロからスタートした当社が、初めて試験熟成に取り組んだのが2013年。そこから10年以上の月日が経ち、世の中にウイスキー製品を届けられるまでになったことは、たいへん感慨深いものがあります。

そして今、アイラへの憧れの先に、さらなる夢が広がっています。そのひとつが、「厚岸オールスター」というプロジェクトです。ウイスキーを造るための原材料から樽に至るまで、すべてを厚岸の産品でできないかという構想から始まった挑戦です。

北海道の東部に位置する厚岸は、お米や麦などの生産には向かないと言われてきたのですが、地元の方々の多大な協力のもとで麦の試験栽培を3年間続け、大麦をつくることができました。その大麦からウイスキーを造り、それを厚岸の森で伐採されたミズナラで造った樽に入れ、まさに今、熟成しているところです。

厚岸という土地のポテンシャルをすべて注ぎ込んだウイスキーになると思いますので、何より私が一番それを飲んでみたいですし、今まで応援してくれた厚岸の方々と一緒に飲んでみて、その美味しさを分かち合えたらと願っています。

ウイスキーは目の前にいる人とよろこびを共有できるだけでなく、世代を超えてバトンを渡せる製品であり、そのことも私がウイスキー造りに惹き付けられる魅力のひとつになっています。

30年物のウイスキーであれば、30年前に丹精込めてそれを造った人がいます。昔の人が造ったウイスキーが、今を生きる自分たちにその瑞々しさを余すところなく伝えてくれます。自分たちの手でウイスキーを造るということは、後世の人たちに、今の自分たちの生き様の詰まったウイスキーを残せるということです。

だからこそ10年、20年先を見据えて、原酒の種類と量とを増やしていくことが、私の役目だと思っています。その時に私がいなくても、次の代の人たちがそのストックを使ってさらに高品質な製品を造ることができるならば、これに勝る喜びはありません。